小役人顔
内田道雄
日本道路公団副総裁
「官製談合」を主導したとして逮捕された(7/25)
それを受けて、テレビのニュース番組は、
公団民営化推進委員会での
猪瀬直樹サンとのキビシイやり取りを
繰り返し取り上げ放映している。
天下り・談合組織の存在について
「知らなかった」「ウソを言っている」と激しく応酬する場面。
そして記者会見を開いて内田副総裁が
「うそつき呼ばわりされ、名誉を棄損された」と
その後の委員会をボイコットする場面。
内田サンが逮捕された後は、それらの映像を見るたびに、
どうも妙な気分になるのだ。
うーん。
ある映画を思い出すのよ。
黒澤明監督の社会派作品
「悪い奴ほどよく眠る」(1960年)
ある公団の副総裁にまつわる汚職疑惑。
その真相を暴こうと、その副総裁の懐に飛び込む
男のサスペンスドラマ。もちろんフィクションなんだけどさ、
政・官・財の「鉄の三角形」が生む
腐敗の構造と内幕をリアルに描き出した問題作で、
公開当時はタイヘンな物議をかもしたらしい。
で、45年も前に作られたこの映画が
なぜか、今回の一連の話とよく似ているのよ。
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公団副総裁が、ある建設会社に
予定よりはるかに高い工事費で落札させ
裏でリベートを取ったという汚職事件が映画のテーマ。
映画の中では、副総裁個人と建設会社という、
いわば一対一の汚職関係になってるけど、
現在明るみに出つつある「官製談合」は
天下り組織と業界組織という、複数対複数の汚職関係。
でも、仕掛けと規模がより大掛かりになった違いがあるだけで
本質的に汚職の構造はまったく同じだ。
「事実は小説よりも奇なり」と言うけど
「事実は映画より巨なり」だったわけだ。
「官製談合」がいつから始まったのはまだ
はっきりしてない様子だけど、この映画が作られたときには
もう始まってたんじゃないかとすら思いたくなる。
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でもね、なにが「妙な気分」にさせるのかっていうと、
映画でワタシにこのデジャブが起きたからじゃない。
その悪役のことなのよ。
映画の中の副総裁はいかにも奸物で、
なおかつ大物風に描かれているわけ。
ところが、こんど捕まった、ホントの副総裁ときたら
ぜんぜん悪役の顔じゃない。
子供の寝起きの様な顔。イメージが違うんだよなあ。
内田サン、それなりに悪賢い感じもあるけど
せいぜい融通の利かない小役人程度だ。
こっちとしたら、「スターウオーズ」のシスみたく
不眠症系の具合悪そうな顔してくれてたら納得いくんだけどさ。
寝ぼけたバイキンマンぐらいの悪のオーラなんだもん。
でも、それが現実だし、リアルなのだ。
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なんで、そうなのかねえ。
考えてみよう。うーん。
内田副総裁は、東大出の公団生え抜きの超エリートだそうだけど、
入社したのは1968年だってね。
ちなみにこの映画が封切られた8年後だ。
入社したときには公団にはすでに
「官製談合」が存在していたのかもしれない。
すると、「官製談合」を否定しては当然、出世できないわけだ。
社会悪だとわかっていても、組織が肯定している以上
従うしかないのだ。エリートなんだから。
罪悪感は仕事の邪魔。
悪いことをしているという自覚をなくし
良識より公団組織のロジックを優先し
仕事にひたすら没頭すると、ああいう
小役人ヅラが出来上がるわけだ。
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ところで、もうすぐ8月がやってくる。
今年もまた戦争のことに思いをはせる季節になった。
体験がないから、ワタシはあれこれ想像を
たくましくするしか能がないんだけどさ。
これまでは、あの無謀な戦争を始めてしまった軍人さんたちは
さぞかし悪人ヅラした、コワーイ人たちだと思っていた。
戦争を終わらせる決断どころか、戦禍を拡大しつづけ
兵隊さんだけでなく市民にまで玉砕を強いた帝国軍人のおエライ人たちは、
どれだけ鬼のようなオソロシイ顔をしてるんだろうと
子供の頃から想像しては、震えていた。
でも、もしかすると、実は軍務官僚たちは、
小役人ヅラをしていたのかもしれない。
うん。戦後60年の今年になって、ワタシはイメージを変えたぞ。
帝国の軍務官僚も、組織のロジックを
なにより優先するエリートたちだったわけだもん。
「謀略」を軍務として立案できる精神構造と
「官製談合」を組織のロジックとして続けてきた
公団エリート官僚たちの精神構造は
ほとんど同じではないかい?
だからきっと同じタイプの顔に違いないよ。
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世の中、ほんとにコワイのは、映画に出てくるような、
いかにも悪役ヅラした悪人より
小役人ヅラしたエリートなのだ。
罪の意識がないから、自分のしたことに恐れをなすこともなく
子供の様にぐっすり良く眠る顔。
なるほど。黒澤明監督の映画のタイトルだ。
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「悪い奴ほどよく眠る」
イラスト・文章の無断転載を禁止します/著作・松村宏